Memorlal Clover Chapter6


・・・夢を見ている。
遠い昔、僕がまだ幼かった頃。
周りの風景がとっても綺麗だった。
近くには教会があって、その前には人だかり。
その人達は僕達の方を向いて妬みや恨みみたいな視線を送っている。
時には一人が何か意味不明な言葉を叫んでいた。
僕にはそれがなんだかは分からない。
あれ・・・僕達?
僕の手を握っているのは誰?
貴方は・・・一体誰?


「・・・またあの夢。僕の何が関係してるんだろう。」


目を覚まして僕はそう呟いた。
時計を見るとまだ明け方の5時。
外はまだ暗いけど、ザーザーと音が聞こえる。
そう言えば天気予報で今日は雨だって言ってたっけ。


僕はベットを出て窓際へと向かった。
まだ頭が起きていないせいか、足下が少しふらつく。
雨は結構好きなんだ。
落ち着くし、何か気分的にとっても気持ちいいしね。
少しだけ、今の夢を忘れる事が出来た。




僕達が入学してから1ヶ月ちょっと。
ガーデン入学者は必ず通らなきゃいけない道があると寮の先輩から聞かされた。


それは・・・学力診断テスト。
ガーデン入学時の奴は実技試験。
今回受ける筆記試験は新入生がどの程度の学力なのかを調べる為に行うんだって。


「ふぇー。試験範囲絶対広すぎだよー!」
「マク君文句言わないの。ほら、採点してあげるから答案出して。」


そして今僕達はその試験に向けて自習室で勉強中。
メンバーは僕とニョロとスカイとミーナ。
最近はよくこのメンバーで集まってたりするんだ。


「・・・マクロ君ってあんまり勉強出来ないんだ。」


スカイの手元にある僕の答案を見ながらミーナはそう言った。


「んー、どうしてだろうな。マクロは得意な科目と苦手な科目の差が激しいんだ。
 しかし、これはひどいんじゃないか?」


ニョロも同じ様に僕の答案を見ている。
・・・そんなに僕の点数悪かったの?


「はい、×付けた所はやり直し。分からなかったらニョロ君かミーナに聞いてね。」


帰ってきた答案にはほとんどの場所に×が付いていた。
ホントにどうしてこんなに間違ってるんだろう・・・。


ちなみに、僕が苦手なのは魔法数字学。
よく略されて魔数学って言われる奴。
この数式が複雑でもう嫌になっちゃう。
一年生の数学だからまだ簡単だってニョロやスカイは言うんだけどね。


「しかし魔数学が苦手なのは前からだったけど、まさかここまでとはな。
 このままだとお前かなりヤバいかもしれないぞ?」


ニョロはそう言って僕の答案の×が付いてる箇所を見てくれた。
後で聞いたんだけど、二年進級の時は一年生のトータルの成績で決められるって。
それで落第して留年する人もたまにいるみたい。


僕達のガーデンは特殊な4期生。
それぞれ4〜6,7〜9,10〜12,1〜3って分けられてるらしい。
そして成績は一期毎に10段階評価で出されて、4期の合計が15を越えなきゃいけないんだ。
つまり一期で既に10を取った場合は次の学期で5以上を取ればOK。
だから早い人は二期ぐらいでもう進級決めちゃったりするんだってさ。


「よし。マクロの弱点が分かった。ミーナにスカイも協力してくれ。」


そう言いながらニョロはミーナとスカイを自分の所へ呼んだ。


「あ、そう言う事なんだ。私が理解してるだけじゃダメなんだね。」
「うー。私はよく説明できそうにないなぁ・・・。」


3人は僕の方をチラチラ見ながら会話を続ける。
そしてどうやら結論がでたらしい。


「よし。これから自習室が閉まるまでミッチリ特訓してやる。
 ミーナとスカイにも感謝しろよ。つき合ってくれるって言うんだから。」


こうして僕は3人からの特別指導を受ける事となった。
まぁ、これで否応なしに覚えられるだろうけどね。


「(ありがとう。みんな僕を心配してくれて。)」


誰に言うでもなく、僕はそう呟いた。




そして試験当日。


「えー。それじゃ今日はまず3教科。
 言語学と魔術数式学と総合理学のテストを開始する。」


・・・やれやれ。
一番得意な科目と苦手な科目がダブルで同じ日取りとはね。
これは誰かの陰謀なのかな?
試験監督の先生が静かに答案用紙をみんなに配り始めた。


まず最初は僕の得意な言語学(国語)。
これは問題文を読むのが好きなんだ。


「これから言語学の試験を開始する。
 不正行為や試験途中の退室は原則として認めないので注意するように。」


チャイムと同時に試験が開始される。
これは得意科目なので案外あっさりと解けたみたいだ。


「言語学試験終了。10分休憩を挟んで魔術数式学の試験を始める。
 チャイムの前に席に着いているように。」


・・・いよいよ問題の科目のテスト。
ニョロ達に随分と仕込んでもらったらかだいぶ自信はある。


「場合の数と確率・・・それに不等式っと。」


ニョロ達と勉強した内容をまとめたノートを再び読み返す。
わかりやすくてとっても助かる。
そうこうしている間に試験監督の先生が教室に入ってきた。


「それでわ二時限目。魔術数式学のテストを開始する。」



・・・・・・




「ふーっ。ようやっと終わった。」


立ち上がって肩を回しながら僕はスカイとミーナの所へ向かった。
まずはお礼を言わないと。
スカイ達のおかげで今日の試験を無事終える事ができたんだしね。


「あ、マク君お疲れさまー。テストどうだった?」


席に着いてすぐ、スカイは僕にそう聞いてきた。


「3人のおかげで何とかなりそう。と言うより何とかなったね。」


スカイ達に教えてもらった通りの場所が出てきたし、
何より・・・今までにない位自信がある。


「結果が出るの2週間後だからそれまではのんびり出来るね。」


この試験結果は大体2週間ちょっとで手元に帰ってくるらしい。
それまではとりあえずの小休止って奴かな?


「あ、それじゃ今度の休みにみんなで近場で遊びに行かない?私いいとこ知ってるから。」


試験が終わって少しテンションが高いミーナがそう言ってきた。


「いいよ。どうせ寮にいてもやることないしね。ニョロとスカイも大丈夫?」


二人共僕の問いかけ首を縦に振った。
どうやらOKみたいだ。


「それじゃ一端寮に戻るよ。計画決まったら教えてね。」


僕はそう言いながら教室から廊下へ出る。
それと同時に誰かが僕にぶつかってきた。


「いたっ。」


よろよろと、僕ははじき飛ばされる。
ぶつかった方は僕の方を向いて一言「悪い」と言ってそのままスタスタ行ってしまった。


「マクロ君大丈夫?」


慌ててミーナとスカイが僕の所へと駆けつける。
ぶつかったのは大したことじゃないし。
どこかをケガした訳でもない。
僕は二人に大丈夫と目で伝える。
ぶつかった人は僕の名前を聞いて一瞬足を止めた。


「・・・マクロ?あれがマクロ・ソリティアか。」


そして何事も無かったかの様にまた歩いて行った。




「ぶつかっておいて[悪い]だけだって。あーゆー態度って何か嫌ね。」


ミーナは既にいない所に向けてそんな事を言っていた。
いや、今のは僕も悪かったんだけどね。
よく前見てなかったし、人が通るとは思わなかったから。


「あ、あの人は確か・・・1組のカミュ君だったと思うけど。」


ふと思い出したかの様にスカイがそう言った。


「カミュ?あのカミュ・アスタリクスか?」


ニョロは何故か驚いている。
一体誰なんだろう?


「そのカミュ・アスタリクスってそんなに有名な人なの?」


僕はとりあえず3人に聞いてみることにした。


「マク君は知らないんだ。カミュ君は実技試験でトップの成績とった人だよ。
 先生達も一目置いてるって話もよく聞くし。」
「アスタリクスは始まりの4種だからな・・・まぁそれも当然か。」


えっと、二人の言ってる事をまとめると、
そのカミュって人はどうやら始まりの4種の血を引いていて。
普通の人より頭がいいって事かな?


「頭良くても性格悪いんじゃ嫌だなー。」


ミーナがそう言ってため息をついた。
でも確かミーナも始まりの4種の一人じゃなかったっけ?
やっぱり種族が違うと性格も違くなるんだ。


「今みたいな事が無いように言っちゃうけど、今度の休みはみんなで都心の方へ行くの。」


このミーナの一言でカミュ君の話からいきなりお休みの話になってしまった。
うむむ・・・なかなか上手い話題転換だ。
でもこの提案は悪くないと思う。


「それいいね。私もちょうど欲しいの色々あったんだ。」
「俺も問題なし。久しぶりに街をぶらつくってのもいいかもな。」


二人共結構乗り気みたいだし。
僕にも反対する理由なんてない。


「じゃ決まりー。今度の休みの午前9時。校門前のバス停集合でよろしくね。」


そう言った後、僕達はそれぞれ寮へと戻った。




・・・そして休日。



空は雲一つ見えないほど快晴。
まだ5月だと言うのに結構蒸し暑い。
天気予報では一足早い夏の気配だか何だかって言ってるけど、
まだ梅雨も来てないし・・・一足どころか二足位早いんじゃないかな?


何て事を考えているうちに時刻は既に8時55分。
僕にしては珍しく時間前にバス停でニョロ達を待っていた。
僕が早起きした理由は簡単。
まだ9時前なのにこれだけ暑いんだから布団被って寝てらんないからね。
起きたと言うよりは起こされたって言った方がいいかも。


「わっ!マク君早いねー。珍しいー。」


と、物珍しそうにスカイは僕を見て言った。
・・・まぁ確かに珍しいんだろうけどね。


「おーい・・・ってぉお!マクロが時間前にいる!通りで部屋行っても誰もいない訳だ。」


ニョロもスカイと同じ様に僕を見てきた。
でもニョロの驚きようは何か無性に腹が立ってくるね。


「ゴメンー。ちょっと遅れたかな?」


それの後に続いてミーナがやってきた。
・・・ってちょっと待って。


「大丈夫だけど・・・何でエフィが一緒なの?」


ミーナの後ろにちょこんと、エフィがいた。


「ほら。エフィ君ってオク手だからこの機会に少しでも改善できたらなーって思ってね。
 あ、ちなみに。ガーデンの外へ出る許可はポリ先生からもらってあるから安心して。」


そう言ってミーナは僕達の前に一枚の紙切れを差し出す。


[外出を許可します・・・確認教員 ポリシア・カシ。]


これも後で聞いた話なんだけど、外出する時にはいずれかの先生に許可をとらなきゃいけないらしい。
何か勝手に外出すると色々マズイらしいから。
誘拐とか事件とかに巻き込まれたら大変だしね。


「これ了承してくれる代わりにエフィを連れて行くって事を了解したの。」


なるほど・・・そういう訳なら納得だ。
ちょうどミーナとエフィが来た時、バスが到着した。


「よーし。ソーンシティへ出発ー!」


僕達を乗せたバスはソーンシティへと向かって走り出した。




〜ソーンシティ〜



僕とニョロは・・・・・・この計画に賛成した事を後悔した。
到着してからすぐに2人は目的のお店に入って、欲しい物を何度も吟味し始める。
当然の事ながら僕とニョロとエフィはそれを待つわけで・・・。
そしてこれも当然の如く、スカイとミーナが買った荷物を持っている。
その荷物の量が既に紙袋5つ分。
ニョロの方は包み紙に入った箱が7つ・・・。
一体何を買ったらこうなるんだろうか?


「ねね。この夏服なんてどうかな?」
「あっ、それいいかもね。ミーナにとっても似合うよ。」


そして当の本人達は僕達の事などすっかり忘れて買い物に走っていた。
・・・これじゃ僕達ただの荷物持ちじゃんか。
何て事を考えていると、


「あ、次はマク君も一緒に来てね。」


スカイが僕にそう言ってきた。
次はって・・・僕が必要な用事なんてあるのかな?
とりあえず荷物をエフィとニョロに預けて2人の後を追った。




「・・・えーっと。まさかここは?」
「そのまさか。それじゃ早速行こっか。」


二人が連れてきたのはランジェリーショップだった。
ここは普通男の子は入っちゃいけない鬼門じゃないのかな?
何て事を考える余裕もなく、強引に店の中へ押し込まれてしまった。


「ねぇー、ここって僕が入っちゃマズイんじゃないの?」
「いえ、女性の方が彼氏を連れてインナーを選ぶのは珍しくないんですよ。」


今の独り言の様な問いかけもバッチリ女の店員さんに聞こえてたらしい。
そしてこれはどうやら男性客に対する説明の様だ。
ってか彼氏って僕の事!?


「マク君。コレなんてどうかな?デザインも可愛いし。」
「あ、でもこっちもいいよ。マクロ君さっきから下ばっかり向いてるけど、ちゃんとこっち見てよ。」


とてもじゃないけど二人の方をまともに見るなんて出来ない。
と言うよりもうどこに目をやっていいのかわかんないや。
いや、やましい事を考えてる訳じゃなくてね。僕も健全な男の子なんだしさ。
それから数十分後、ようやっと僕は地獄の時間から解放された。




「ふーっ。これで私達の欲しい物は全部揃ったよ。3人ともどうもありがとうね。」
「ホントに助かったよー。みんながいなかったらこんなに買えなかったし。」


とりあえず買い物が一段落ついて、僕達はとあるデパートの屋上で昼食を取ることにした。
でも僕もニョロも荷物持ちで既にグッタリしてたりする。
いあ僕の方はさっきもっとひどい攻撃を受けたからね。


「今度から絶対にあそこには行かないからね。」


2人に釘を刺すように、僕は言った。
後でこの事をニョロに話したら、


「おー、そいつはレアな体験したなぁ。」


何て軽く言ってくれたよ。
エフィは特に感心を持った訳じゃなさそうだけどね。


「荷物は宅配便で寮に送るとして、後は3人が行きたい場所につき合うよ。」


そう言われたのはいいんだけど・・・ちょっとしばらく動きたくないかも。
ニョロも同じ様子みたいだし。


「あの・・・私行きたい所があるんだけど。」


不意にエフィが僕達にそう言ってきた。


「オッケー。じゃもうしばらく休憩したら行こうか。」


エフィが行きたい所ってどんな所なんだろう。
そう思いながら、僕は手元にあったジュースを飲み干した。



昼食を取り終わった後、僕達はエフィの案内である場所に来ていた。


「ここ。私が一番好きな場所なんだ。」


そう言ってエフィが連れてきたのは近くに海が見える丘の上。
潮の香りと波風が僕達を撫でる様に通り過ぎていく。


「すごい綺麗で素敵な場所だね。ここならお気に入りにする理由が分かるよ。」


僕は素直に、そう思った。
でも何でだろう・・・この場所前にも来た事ある様な気がする。


「へぇ。エフィが来たい所ってここだったんだ・・・。」


そう言ってるスカイはどこか変な感じがした。
僕に都合の悪い事を隠してる様な・・・。



「あっ!」



そんな事を考えていると、急にミーナが大声を上げて僕の方へ近づいてきた。
手には小さな四つ葉のクローバーを持っている。


「マクロ君知ってた?四つ葉のクローバーを見つけると一つだけ願い事が叶うんだって。
 私はあんまり信じてないんだけど・・・マクロ君にお願いの権利あげるねっ。」


そう言ってミーナは僕の手の上にクローバーを乗せる。
その四つ葉は他のクローバーより一回り程小さく、見ていて弱々しい。
でも何故か・・・僕はそれに対して深い何かを感じた気がした。


「まぁ、ありがたく受け取っておくよ。何かの間違いで叶うかもしれないしね。」


僕はクローバーを手帳に挟んでそのまま胸ポケットへ仕舞った。




☆ ☆ ☆



ここが・・・あの場所なんだね。
エフィがここに連れてきた時、なぜだか嫌な予感がした。


詳しい事はまだ分からないけど・・・。
ここでマク君に何かあったはず。
それだけは間違いない。


だって、私には・・・。


☆ ☆ ☆


丘を後にして僕達は帰路についた。
流石に久しぶりの外出は体にこたえるね。
足とか肩とか痛くてしょうがないよ。
(肩が痛いのは多分荷物持たされたせいなんだろうけど。)
でもとっても充実した一日だったと思う。



みんなありがとう。これからもよろしくね。


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