Memorial Clover Chapter4

☆ ☆ ☆

ふと気が付くと、私はマクロ君にキスをしていた。
その行為に恋愛とかの感情は挟んでいない。
ただ助けてくれたお礼のつもり・・・だったのに。
どうしてだろう。
キスした事で心の中に変な感じがする。
モヤモヤしてて・・・何か実体がないみたいな感じ。
そのままマクロ君と食堂に行ったけど、ご飯の味なんてほとんど分からなかった。
そして水月寮まで送ってもらって・・・自分の部屋でこんな風に考えてる。
この気持ちは何なんだろう。
そんな事を考えているうちに、何だか体が熱くなってきている。
「私・・・どうしちゃったんだろう。」
私は何も考えずに布団を頭から被って寝る事にした。

☆ ☆ ☆

次の日、僕は自分のベットの上で目を覚ました。
昨日はミーナと食堂へ行って、そのまま送り終わったら寝ちゃったんだっけ。
でも何でだろう?
何かイマイチ眠った気がしないのは。
それを気のせいだと思い、僕は洗面所へ向かった。


「・・・あれ?」


僕は自分の顔を鏡で見て思わず間の抜けた声を上げる。
鏡に映った自分の目の下に何故かクマが出来ていたのだ。


「おっかしいなぁ、昨日は確かに寝たはず・・・!!?」


ふと、僕の頭の中に昨日の出来事が鮮明に蘇ってきた。
その出来事を振り払うかの様に僕は水で顔を何度もバシャバシャと洗う。


そうだ・・昨日はミーナにキスされたんだっけ。
その後は僕もよく覚えていない。
ただちゃんとミーナを送って自分の部屋に帰ってきた事は覚えてる。
なら間違っても・・・変な事はしてないよね?


「ピーンポーン」


短い呼び鈴の音が部屋中に鳴り響いた。
こんな朝早くに誰だろう?
不審に思いながら僕は玄関へ行きドアを開けた。


でも何となく、この来客は誰か分かる。


「よ。そろそろ行かないと朝飯食べ損ねるぞー。
 今日はちゃんと起きてるかー?」
「(・・・やっぱりね)おはようニョロ。」


予想通り、呼び鈴を鳴らしたのはニョロだった。
ニョロは既に制服とローブを着ていて、準備万端って感じだ。


「何か顔色悪くないか?目の下にクマとか出来てるし。」


僕の顔色が悪いのに気づいたのか、ニョロはそう言った。
今日の僕ってそんなに顔危ないのかなぁ?


「大丈夫。多分ちょっと寝不足なだけだから。
 昨日も色々あって疲れたしね。
 もうちょっと待ってて、今着替えて準備してくるから。」


僕は部屋に戻り、クローゼットにかけてあった制服に袖を通した。
そしてローブを外から羽織って玄関へと向かう。


「ホントに大丈夫かー?足下ふらついてる感じだぞ?」
「大丈夫だってば。このぐらい平気だよ。」


心配しているニョロをよそに、僕はそのまま食堂へと向かった。



朝ご飯が終わってからすぐ、僕とニョロは自室に戻り今日の授業の準備を確認した。
って言っても、ニョロは既に準備が終わって僕の部屋に来てるんだけどね。


「ねぇ、今日ってどんな授業やるの?」
「はぁ?お前何言ってるんだ。今日は第一日目だからクラスの発表だろ。
 授業なんてあるわけないしな。寝ぼけて頭どっか飛んでるんじゃないか?」


呆れた様子でニョロは僕にそう言ってきた。
言われてみれば確か入学要項にそんな事がかいてあったかもしれない。


「ふーん。んでそれってどこに貼り出されるの?」
「中央校舎前に掲示板を設置するから、そこで自分のクラスを確認しろだって。」


要項をパラパラとめくりながらニョロは言う。


「中央校舎ね・・・んじゃいこっか。」
「おう。一緒のクラスになれたらいいな。」


僕は机の上においといたカバンを掴んでニョロと一緒に中央校舎へと向かった。




「うーんと・・・僕は1−2だね。ニョロはどう?」
「俺は・・・おっ、お前と同じで1−2だな。」


ラッキーな事に僕とニョロは同じクラスだった。
この2組って言うのは結構いい位置取りかもしれない。
スカイの言ってた事がホントだとすると・・・僕達は普通よりちょっと良かったって感じかな?


何て事を思っていると、


「よぉ。マクロにニョロじゃねぇか。久しぶりだなー。」


背後から謎の声が聞こえてきた。


「お前らクラスどこ?俺は1−3なんだが。」


彼の名前はレット・クローバー。
いわゆる僕達の悪友って奴。
地元の学校ではよく3人で色んなイタズラしたっけ。
そしてケンカとかがもの凄く強いんだよねぇ。
以前街で会った上級生をのしちゃったりしてたし。


「僕とニョロは1−2。ってかレットに会う事自体久しぶりだよね。」


確か最後に会ったのは卒業式の日だから・・・大体1ヶ月ぶりって所かな。


「ふーん、そいつは残念。でも隣だから多分遊びにいくかもな。


 んじゃちょっと俺様はその辺ぶらついて教室行くわ。」
ブンブンと手を振ってレットは嵐の様に去っていく。


「相変わらずだよねぇ。レットってさ。」
「全くだ。でもあれがアイツのいいところなんだけどな。」


そう言いながら僕達は教室へ向かった。



「あれ?ミーナとスカイ?」


教室についてすぐ、窓際の席で仲良く話している二人を見つけた。
二人とも僕と同じクラスなんだ。
話に花が咲いていて僕達に気づいてないみたい。


「でね。その時にマク君が・・・。」
「えーっ!それホントー!」


二人の近くまで寄ってみる。
どうやら僕の事を話してるらしい。
・・・一体何話してるんだろ?


「おはよー。ミーナもスカイも何話してたの?」


何気なく、裏を感じさせない様に僕は二人に話しかける。


「あ、噂のマク君登場。早速さっき言った事聞いてみるといいよ。」



そう言ってスカイは自分の席へと戻っていった。
スカイの席は・・・廊下側の一番前か。
確か席順も実技試験の結果で決まるって言ってたっけ。
と言う事は、スカイってこのクラスで一番試験結果が良かったって事?


そんな事を考えていると、


「ねぇ。マクロ君って小さい時スカイちゃんに告白したってホントー?」


何てとんでもない発言が飛び出してきた。


「な・何で!?そ、そんなぁ事言った覚えはないじょす!!」


不意の攻撃で僕は思いっきり動揺している。
自分でも何言ってるか分からない位支離滅裂な状態だった。


「ふーん、マクロ君って面白いんだね。からかいがいがあるね。」


そう言ってミーナは僕をおもしろ半分に見ている。


「コホン・・・ちなみに、僕そんな事言った覚えは全くないからね。」


少し落ち着いた僕は改めてミーナの方を向いた。


「うん、わかってるよ。だって今の嘘だから。」


・・・なんだ。僕はいいようにからかわれてただけか。
これ見よがしに僕はため息をついた。


「あのね・・・本当は・・・」


「キーンコーンカーンコーン」
タイミングを計ったかの様にチャイムがHRの時間を告げる。


「あやっ!それじゃまた後でね。」


ミーナはスカイの2つ後ろの席に戻っていった。
結局スカイはミーナに何を教えたんだろう。
まぁ、とりあえず僕の事らしいけど・・・今は深く考えるのはやめておこう。


「っと、僕も早く席に座らなくちゃ。」


廊下から2列目の真ん中の机が僕の席らしい。
と言うことは・・・中の上って所かな?




チャイムが鳴ってから2〜3分経った頃、


「おはよーっ。みんな元気かなー?」


ガラガラと戸を開けて先生が入ってきた。


「新学期そうそう私のクラスに当たるなんてレアよねぇー。」


この先生は確か・・・ポリシア先生だっけか。
軽いノリとハイテンションが印象深かったなぁ。


「あー、そうそう。私普段は養護教諭で保健室にいるんだけど、
 君達のクラスの先生になる人が急に入院しちゃって。
 だから代理で私が担任やる事になってるからよろしくー。
 それじゃ出席取るわねー。」


そう言ってポリ先生は名簿を開いて出欠を確認し始めた。
・・・この先生大丈夫かなぁ?




程なくして、先生の出欠確認は終わった。


「じゃ出欠確認も終わったから次は委員を決めましょう。
 多分初対面の人が多いだろうから先生が勝手に決めるわ。
 まず学級委員は・・・マクロ君とスカイさん。よろしくね。」


えーっと、これはどういう意味で僕とスカイなんだろう。
何か特別な意図でもあったのかな?


「あのー、何で僕が委員長なんですか?」


何となく無駄と分かっていたが、とりあえず僕は聞いてみた。


「ん?特に深い意味はないわよー。
 強いて上げるなら何となく学級委員っぽい顔だったってくらいかな?」


間違いない・・・この先生絶対彼氏いないし性格歪んでる。
何だかなぁ。もう。


「えっと、先生の指名で委員をやる事になったリプトン・スカイです。
 どうぞよろしくお願いします。」


そんな唖然として突っ立っている僕を後目に、スカイは自己紹介をしていた。
パチパチとその周りから拍手が聞こえる。


「(マク君も一言いいなよ。)」


そんな風にスカイが僕を見て言ってる様な気がした。


「それじゃ、僭越ながら委員を務めさせていただくマクロ・ソリティアです。
 これからよろしくお願いします。」


再び周りから拍手が聞こえた。
でも心なしスカイより少ない気もしたけど。


「さて次はっと・・・。」


ポリ先生はクラスメイトに次々と委員を割り当てていく。
保健委員、美化委員、事務委員・・・みんないきなり言われて戸惑っているみたい。


「それじゃこれで役員決めも終わりー。今日はこれだけだから、後は解散でよろしくー。」


そんな事を言いながらポリ先生は教室から出ていった。
・・・何か先行きにすごい不安を感じたんだけど・・・大丈夫なのかな?





時計を見るとまだ11時になったばっかりだった。
さっきのポリ先生の強引な役員決めで、予定よりかなり早く終わっちゃったみたいだ。
やる事も思いつかないし・・・一端寮に戻ろうかな。


そう思って教室を出ようとした時、


「・・・ソリティア君、ちょっといいかな?」


誰かが後ろから声をかけてきた。
この声は確か・・・、


「僕に何か用?エフィ?」


案の定、後ろから声をかけてきたのはエフィだった。
何だかすごく深刻な感じがする。


「えっと・・・あの・・その。」


モジモジと手を前に当てながらエフィは言葉を詰まらせている。
そう言えばエフィって男の子前にすると恥ずかしがってまともに話せないんだっけ。
そうして意を決したかの様に、エフィは僕に向かって、


「ソリティア君って男の子と恋人同士になった事とか・・・ある?」


何て事を言ってきた。


「え・・・?それはつまり男の子とキスとかしたって事?」


エフィの話の意図がイマイチつかめない。
だけどエフィは今の僕の質問にコクコク頷いていた。


「そう言う事は一度も無いなぁ・・・何で僕にそんな事を聞くの?」
「うんと・・・ソリティア君ってどっちでもOKって顔してたから。」


そう言ってエフィは俯いてしまった。
初めて会った時と同じくらいに顔が赤い。


・・・いくら僕でも男の子とキスするなんて事は絶対にない。
確かに同性愛って言うのは認められてるけど、実際に見るのはまず稀な事だ。
多分このガーデンにも何人かはいるとは思うんだけどね。


「どっちでもOKって・・・普段どういう目で僕の事を見てるのさ。」


と言うか僕の顔のどの辺が学級委員とか同性愛とかに見えるのかわかんないなぁ。


「そう・・・だよね。変な事聞いてゴメン・・・それじゃ。」


そのままエフィはダダダッと扉に向かって走っていった。
今日はホントに何だかなぁ・・・。
そう思いながら、僕は寮へと戻った。




自分の部屋についてすぐ、僕はベットの上に横になった。
さっきから体が熱くてモヤモヤする。
何か自分の中に変な物が入って暴れてる様な感じ。


「ホントにどうしたんだろ・・・僕。」


そう呟いた後、僕の意識は闇の中に沈んでいった。




・・・夢を見ている。
遠い昔、今の僕が知らない風景が目の前に広がっている。
近くには教会・・・後はたくさんの人だかり。
僕は誰かと手を繋いでいた。
近くからは妬み、嫉妬みたいな視線が突き刺さる。


「・・・・!」
「・・・!・・・の子だ!」


ああ、この人達は何をこんなに喚いているんだろう。
隣の誰かは必死でこらえていた。
僕の隣にいるのは・・・誰?




「・・・君。」


僕を呼ぶ声が聞こえる。


「・・・ロ君。」


声は段々とはっきり大きくなっていく。


「マクロ君!」
ああ、この声の主は・・・。


「・・・・・ミーナ?」


僕はまだ開ききらない目を開けて正面を見る。


「マクロ君、起きたんだよね?」


予想通り、目の前にはミーナが座っていた。
目の辺りが少し赤い・・・もしかして泣いてたのかな?


「私、ポリシア先生呼んでくるね。」


そう言ってミーナは部屋を出ていった。
近くには氷枕や水の入った洗面器がある。
どうやらミーナずっと僕を看ててくれたみたいだ。
そして程なくして、ポリ先生が僕の所に来た。


「・・・うん。熱は下がってる。もう大丈夫ね。一応解熱剤と薬は置いていくから。」


どうやら僕は風邪を引いたらしい。
あのモヤモヤして体が熱かったのは風邪のせいなんだ。
やっぱり慣れない魔術とか使ったからかなぁ。


そして帰る前にポリ先生は、


「あ、クレィルさんに感謝した方がいいわよ。彼女ずーっと貴方を看てたんだから。」


そう言い残して出ていった。
それと入れ替わりでミーナとスカイが入ってくる。


「マク君大変だったね。多分今日は色々あったし疲れたんじゃないかな?」
「そうだよ。私が気づいてここに来なかったら大変だったんだよ。
 呼び鈴ならしても返事ないし、鍵は開いてたし。」


二人は僕を本気で心配してくれていたらしい。


「心配かけちゃってゴメンね。二人ともどうもありがとう。
 でももう少し寝たいから、席外してもらっていいかな?」


僕は自分の部屋の鍵をミーナに渡す。


「うん。それじゃマクロ君もお大事にね。」
「明日ミーナさんと一緒に起こしに来てあげるよ。」


二人はそう言って自分達の寮へと戻って行った。


「二人とも心配してくれてありがとう・・・。」


誰もいない所で、僕は呟く。
そしてそのまま眠りについた。





心配事はいっぱいあるけど、きっと大丈夫。何でも乗り越えられるよ。

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