Memlrial Clover Chapter3



家に帰ってすぐ、僕は寮に入る為の荷物の準備を始めた。

 


「着替えに本に・・・後色々っと。」

 


テキパキと用意した段ボールに荷物を詰める。
意外と持っていく物ってないみたいだ。

 

 


用意が予想より早く終わったので、僕は試験の練習をする事にした。
さっきバスで寝てたおかげか今はまだあんまり眠くない。

 


「えっと・・・火の行を司りし幻影の名の下に、」

 


左手に持った[基礎魔術問題集]を開いて僕は魔法陣の中にスペルを入れる。
魔術って言うのは自分に自己暗示をかけて術を使う方法で、
魔術事に決まったスペルが存在する。
これは誰が使っても変わらない。
呪文を使用者に合わせてカスタマイズするんだ。
だからどっかでやたら長い詠唱呪文があったとしたら、
それを発動させるまで時間はかかるけど威力はとっても強くなる。
その理由は自己に暗示をかけるからで、自然とその術の力を引き出せるから。

 


例えば、火だったら火のシンボルみたいなのを、
スペルとして呪文の一部に入れなきゃいけない。

 


「火の精霊に告ぐ、発火の業を発動させよ!」

 


ちなみに今は火の魔術。
シンボルとして火の精霊ってスペルが入ってる。
他としてイフリートとか色んな例えがあるんだけど、まぁそんな難しいのは出ないと思う。

 


あ、後この火の精霊の所を特定の精霊の名前にすると、1ランク上の魔術になるんだ。

 

 


僕の呪文と同時に指先に5つの火の玉が出現する。

 


「これが火の魔術の基本。発火の業・・・だって。この位簡単じゃん。」

 


と言うかこれはもう当たり前。
地元の学校で一番最初に習う事だから。

 


「次は、風の行に存在せし者の名の下に・・・」

 


今度は風の魔術。

 


そしてこれも成功。
そのまま五行全ての基礎魔術を僕は使ってみる。
何の問題なく、五行の基本魔術は発動させることができた。

 


「次は・・・ちょっと高度に[投影]の魔術でも。」

 


そう言って僕は空に魔法陣を敷いていく。
ちょっと高度だから、魔法陣も書くのが少し大変。
そして僕がイメージする対象はナイフ。

 


「火・金の力を合わせ、我が思いし物を具現化させたまへ!」

 


火と金の力が相克され、思い描いた対象が具現化する。
同時にナイフが僕の目の前に落ちてきた。
僕はそのナイフを手に持って質感と形を確かめる。

 


[投影]は自分の想像した対象を具現化する魔術。
どっちかって言うと幻術とか神秘の領域なんだけど、何故か魔術に位置づけられてるんだ。



「無事成功っと、ちょっと疲れたかな。」

 


本を閉じて僕はベットに腰掛ける。
基本魔法でも連続して使うとやっぱり疲れる。
それも当然、魔術とか魔法は精神力が決め手だからね。

 


「でもなぁ、こんな簡単な問題じゃないってのは分かってるよ。」

 


誰に言うでもなく、そんな言葉を僕は口に出していた。
・・・僕らしくないな。
いつでも明るくて楽天的な感じなのに。

 


そんな風に考えていたら、急に眠気が僕を襲ってきた。

 


「あっちゃー、普段魔術の練習何てしないから疲れたのかな?」
ここ最近は色々不安な事あって寝不足だったし・・・。

 


僕は為すすべなく、意識と共に眠りの底へと落ちていった。

 


・・・夢を見ていた。
遠い昔、誰だか分からない人達と僕はいたんだ。
僕の顔をみて悲しそうにしてる人や妬みの視線を向けてくる人もいる。

 


雰囲気が暗くて、とっても寂しい。
これは何の夢なんだろう。
・・・この夢は僕の何なんだろうか。

 

 


「・・・ロ」

 


誰かの声が聞こえる。

 


「・・・クロってば。」

 


段々はっきりと、そして大きな声になっていく。

 


「起きろー!マクロ!」

 


その声にビックリして、僕はベットから跳ね上がった。
それと同時に何かにゴンと音を立ててぶつかる。

 


「いったーい・・・今の何さ?」

 


額を抑えて僕はぶつかった対象に目を向ける。

 


「この寝ぼすけ!今何時だと思ってるんだ?」

 


どうやら僕にぶつかったのはニョロだったみたいだ。
ニョロも同じように額を抑えていた。

 


「何時って・・・今まだ夜の11時位でしょ?
 何でこんな時間にニョロが僕の家にいるの?」


ぶつかったのが余程痛かったのか、ニョロはちょっと涙目になってた。

 


「いいから、まずは時計見て見ろって・・・。
 ちくしょう、何で俺がヘットバッド食らわなきゃいけないんだ。」

 


言われた通り、僕は枕元に置いてある時計に目を向ける。
時計の長針は12を、短針は1の所を刺していた。

 


「えっと・・・お昼の1時ー!?」

 


ここで僕はようやっとこの事態の深刻さに気づいた。
昨日魔術練習した後からだから・・・半日ずーっと眠っていたみたい。
言われてみれば、すでに外は太陽が真上に昇っていた。

 


「えー!何で僕こんなに寝ちゃってるのー!?」

 


普段絶対にあり得ない行動で僕はパニック状態に陥ってしまった。
それを傍目でニョロが見ている。

 


「やれやれ、今日が入学式じゃなくて良かったな。
 ま、そうだったら無理矢理たたき起こしてやっただけだけど。」

 


ニョロはそう言って机のイスに腰を下ろす。
・・・最近の僕ってどうかしてるのかな?

 

 


そのままニョロと話し込んでいるうちにいつの間にか外は暗くなっていた。

 


「お、もうこんな時間か。俺そろそろ帰るわ。」
「りょうかーい。また明日ねー。」

 


部屋を出て玄関までニョロを送る。

 


「んじゃ明日はちゃんと起きててくれよ。また待たされるのはイヤだからな。
 あ、それともう一つ。明日はスカイも一緒に来るからよろしくなー。」

 


そう言ってニョロは自分の家へ帰っていった。

 


ん・・・・?スカイが一緒に来る?どうして僕達と来るんだろう?
まぁ、明日は実技試験もあるし、友達は多い方が気楽だからいいけどね。



明けて次の日。

 


今日の僕は昨日一昨日の僕とは違うよ。
何たってちゃんと起きてるんだから。

 


約束の時間まで後1時間・・・ちょっと早すぎたかな?

 


そう思いながらも僕は再び今日の持ち物の確認をしてみる。

 


「えーっと荷物運びの申込書、入学案内、入学証明書、
 実技試験受領書、筆記用具、基本魔術書・・・これで全部かな?」
カバンの中身を全部ひっくり返して床に今日必要な物を並べてみた。

 


・・・大丈夫。
「入学案内と照らし合わせても忘れ物はない・・・ってあー!」

 


とある事に気づいて僕は自分の部屋へ駆け上がる。

 


そして乱暴にドアを開け壁際にかけてある制服をひっつかんだ。
実は入学式では制服を着る事になっていた。
そして僕はあろう事かいつもの私服でガーデンに行こうとしてたのだ。

 


「危ない危ない。またニョロに何か言われる所だった。」

 


そうぼやきながら僕は新しい制服に袖を通してみる。
おろしたての制服は折り目がビシッと決まっていて、クリーニング屋さん独特の臭いがする。

 


「うはぁ・・・孫にも衣装ってよく言ったもんだなぁ。それって正に今の僕の事じゃん。」

 


このことわざの意味はよくわかんないけど、大体こんな感じで使うんじゃなかったかな?

 


〜ピンポーン〜

 


と、そうこうしている間にいつもと変わらない玄関の呼び鈴が声を上げる。
時計を見るとあれから既に1時間が経っていた。

 


「うわ、もう1時間経っちゃったのかぁ。あ、今開けるから待っててー!」

 


僕は走って玄関へ向かった。
そしてそのまま空中に・・・ってあれ?

 


「おぃーっす。今日から・・・ってお前何してんだ?」

 


ガラガラとドアが開き、ニョロは僕の姿を確認する。
そして何故僕が廊下で倒れているのと言う悲惨的状況を冷静に分析していた。

 


「・・・バーカ。」

 


ニョロは心底呆れた様に僕にそう言ってきた。

 


そう。今僕は慌てて廊下を走り、置いてあった荷物に足を取られて見事に顔面から転んだのだ。
顔面をぶつけたのは・・・はっきり言って泣きそうな位痛かった。

 


「ふぇーん・・・何でいっつもこんなんばっかりー」

 


鼻を押さえて涙目になりながら僕は立ち上がった。
そんな様子をクスクスとスカイが笑って見ている。
どうやらニョロとスカイは一緒にうちに来てくれたみたいだ。

 


「試験ある日に転んじゃうなんて、ちょっと縁起良くないかもね。」

 


笑顔でそんな事をスカイは口に出す。
そんなますます不安になるような事言わないでよ・・・。

 


「まー、それはどうでもいいとして。あんまり時間もないから早く準備してくれ。」

 


ニョロにそう言われて、僕は玄関にある置き時計を見る。
見るとあれからもう既に10分が経過していた。

 


今は7時40分・・・ちなみに、バスの時間は8時ジャストだ。
ここからバス停までは大体15〜20分かかる。

 


「わわわっ!もう準備は出来てるから後3分待って。」

 


そう言って僕は居間に戻り置いてあったカバンをひっつかんだ。

 


「寮へ送る荷物は・・・後で母さんに連絡入れればいいか。」

 


僕は居間の机の上に書き置きを残して玄関へ戻る。
玄関では先と変わらず、ニョロとスカイが待っててくれていた。

 


「時間もないし早く行きましょうか。あ、マク君肩にゴミがついてるよ。」

 


チョイチョイっとスカイは僕の制服に付いてたゴミを取ってくれるた。
ニョロはなにやら怪しげな笑みでその様子を見ている。

 


「さて、お熱い朝はこの位にしてっと・・・二人とも俺に乗りな。
 このままじゃ確実に乗り遅れるから乗せていってやるよ。」

 


そう言ってニョロは背中から翼を出して自分に巨大化の魔法をかけた。

 


竜種は翼を伸縮する事が出来て、普段は小さくして服を着る上で邪魔にならない様にしてるらしい。
そしてニョロは魔法では上位に位置する付与の魔法が使える。
だから巨大化のスペルを自分に刻む事で、その力を使うことが出来るんだって。

 


「流石はニョロ。それじゃお願いね。」

 


僕とスカイはニョロの背中に乗った。
ふわっとした背中の乗り心地はとってもいい感じなんだ。

 


「よっし。こっからバス停まで約5分。しっかり捕まっててくれよ!」

 


そう言うと同時にニョロは空へと翼を羽ばたかせる。
二人を乗せていると言うのに、ニョロはいとも簡単に上空へと上昇した。

 

 


・・・確かにこれはちょっと辛いかも。
僕はニョロの首を、スカイは僕の腰の辺りに手を回してそれぞれ落ちないようにしていた。

 


「到着ー。最近使ってなかったが、意外にいけるもんだな。」

 


程なくして、僕達はバス停に着いた。
この間聞いた話だと、この街から今年ガーデンに入る生徒は大体50人位だって。
時間も時間のせいか、バス停には何人か同じ学校で見知った人達がいた。

 


みんな手元に奇跡の基本問題集を持ってる。

 


「やっぱみんな真剣なんだ。よーし。僕も頑張らなくちゃ!」
バスに乗り込み、僕もみんなと同じ様に一昨日やった魔術の復習を始めた。



一昨日と同じく、バスは1時間でガーデンに着いた。

 


降りると同時に、

 


「今年度入学生の方はこちらで受付を済ませてくださいー。」

 


そんな声が聞こえてくる。

 


その声の方を見ると、一昨日受領書をくれた先生が新入生を誘導していた。
僕達はそれについて行こうとしたが、何だか妙な不安が頭をよぎる。

 


「(まさかとは思うけど・・・あの子今日も暴走してきたりしないよね?)」

 


などと考えていると、

 


「キャーッ!!」

 


一昨日と同じ悲鳴が耳に聞こえてきた。

 


「ぁぁ、何でこんな時の予知能力だけはさえてるんだろう・・・。」

 


思わず自己嫌悪したくなる。
何でか知らないけど、僕がこんな風に考えると大抵それが起こるんだよなぁ。

 


仕方ないので僕はニョロに目線で言いたい事を伝えようとした。
僕の視線に気づき、ニョロは短く魔法の発動スペルを呟く。

 


「御・蓮・珍・舎・・・・・・・渇!!」

 


一昨日とは違う魔法のスペルがニョロから発せられた。
これは確か・・・随分昔の主流だった仏法魔法(?)だったかな?
西洋魔法と原理は同じだから語る必要はないね。

 


途端自転車は何か柔らかい壁にぶつかったかの様に後ろへ跳ね返る。

 


前と同じように女の子は僕の方に向かって飛んできた。
今度は大丈夫。ちゃんとその子を受け止める事が出来た。


☆ ☆ ☆ ☆


「今日こそは・・・」

 


そう思って私は自転車に幻術をかける。

 


「あなたは車、だから自動で自転車より早く走れる。」

 


幻術は基本的に対象に語りかける事で発動されるの。
だから魔法とか魔術みたいなスペルは必要ない訳。

 


「よし・・・行っくよー!」

 


かけ声と同時に私は地面を蹴って自転車に跨った・・・のはよかった。
しかし自転車はそれを快く思わなかったらしい。

 


「やだ・・・もしかしてまた失敗?」

 


ギュワン!と自転車ではあり得ない爆音をたて、
私はまた暴走自転車でガーデンまで行く事になってしまった。

 


・・・そしてガーデン前。一昨日みたいな幸運はもうないかも。
あの時は確か犬種の男の子と竜種の男の子が助けてくれたんだっけ。

 


何て事を考えていると、何と私の目の前にその二人がいたのだった。

 


「御・蓮・珍・舎・・・・・・・渇!!」
竜種の男の子から呪文みたいな声が聞こえる。

 


それで自転車は壁に当たったみたいに跳ね返った。
そして私は前と同じ様に・・・その犬種の男の子に受け止めてもらっていた。

☆ ☆ ☆ ☆



「・・・君って変わってるね。」

 


僕は一番最初に思った事を口に出す。

 


「そう?ちょっと周りからはせっかちって言われる位なんだけど。」


しれっと。彼女はそう言った。
どうやら本人にはあんまり自覚がないみたいだ。

 


彼女の名前はミーナ・クレィル。

 


クレィルって聞けば分かると思うんだけど、
彼女は始まりの祖って呼ばれる人の血を引いてるんだって。

 


んで詳しい流れは省くけど・・・何だかんだで僕達と行動を共にする事になった。

 


でもちょっと気になる事が一つ。
何かさっきからスカイの視線が痛いんだ。
まるで獲物を見つけて殺気立ってる感じ・・・。

 


それを気のせいだと思い、僕達は実技教習用校舎へと向かった。

 


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