Memlrial Clover Chapter3@



実技教習用校舎は二度目に見てもやっぱり不気味に見える。
まるでこれから天変地異とか大災害とかが起こりそうな感じなんだもん。

 


「えー、新入生はこっちですよー。こっちで登録を済ませてくださいねー。」

 


校舎の前で立っている先生がそう言った。
声からすると・・・多分女の先生だ。
僕達はその先生の元に向かった。

 


「おはようー。今日新入生の案内をするポリシアです。私の事はポリ先生って呼んでね。それじゃ受領書を見せて。」

 


・・・何か随分軽くて親しみやすい先生なんだなぁ、と僕は思った。
そして僕達はポリ先生に受領書を渡す。

 


「えーっと、貴方はマクロ・ソリティア君。ソリティア君は2階の201号室に向かってね。
 ニョロ・アシュレット君はソリティア君の隣で202号室。
 次にリプトン・スカイさんは・・・3階の303号室。
 最後にミーナ・クレィルさんは・・・4階の401号室?」

 


そこまで言って、ポリ先生は言葉を切った。

 


「変ねぇ、受験者は確か3階以上行かなかったと思うんだけど・・・まぁいいわ。
 それじゃ、今日はみんな頑張ってねー。」

 


明るいポリ先生を見ながら、僕達は各部屋へと向かった。

 




「・・・これはちょっと、一つ言いたい事があるんだけどいいかなニョロ?」
「う〜ん、これはマクロでなくても言いたい事はたくさんあるだろうなぁ。」

 


ブツクサと僕は文句を口に出す。
それも当然、この201号室は確実に異界へ通じてる確信を持てるからだ。
隣の202や203とは全く違う、異次元のオーラが漂っていた。

 


「ホントにこんな所で試験やるのー、何かイヤだなぁ。ねぇ、ニョロ部屋変わってよー。」

 


隣の教室前で待機するニョロに僕は懇願のまなざしを向ける。
でもダメだったみたい。ニョロはあっそ、って言ってそのまま問題集に目を走らせちゃったから。

 


「はぁ。やれやれって感じだね。でもこんな所でどんな試験が課されるんだろう?」

 


この雰囲気では相当高度な魔術を使わなきゃいけなくなるかもしれない。
そんなの僕には無理なぁ。
そして何より今一番イヤなのは・・・前にも後ろにも誰も並んでない事。
この2階って場所には僕とニョロしかいなかった。
他の新入生はどうしたんだろう?

 


「マクロ・ソリティア君」

 


そんな事を考えてるうちに、扉の中の方から声がしてきた。
どうやら僕の順番が来たみたい。

 


「じゃ、行ってくるねー。」

 


ニョロに片手を振って、僕は扉を潜った。

 



扉の中はどこの学校でもある普通の教室だった。
じゃあ、さっきの異次元っぽかったオーラは何だったんだろう?
そんな風に思っていると、

 


「君がマクロ・ソリティア君か。」

 


いつの間か、僕の目の前には一人の先生が立っていた。
犬種と竜種のハーフらしい。
しかしどちらかと言うと犬種の血の方が強そうだ。

 


「はい。僕はこれからどんな試験を受けるんですか?」

 


今一番気になる事・・・それを僕は率直に先生に言った。
先生はそれに少し思案したかと思うと、

 


「ふむ、君は少しせっかちな傾向があるようだ。それを悪いとは言わないがな。」

 


何て言葉を口にする。

 


「まぁそれはさておき、君には[投影]の魔術をしてもらう。
 なお、この試験内容は変更できるが、変更するかね?」

 


先生は僕を真っ直ぐ見てそう言った。
何て言うのか・・・凄く怖い。
まるで嘘を付いても全てを見透かされそうだ。

 


「はい。[投影]の魔術ですね。そして投影するモノは何でしょうか?」

 


僕はその視線を真正面で受け取り、キッパリとそう言った。
それに先生は少し感心したらしい。

 


「ふむ。でわ君にはこの課題だ。[投影魔術を使い、ナイフを10本投影せよ]。」

 


・・・ナイフ10本?たったそれだけでいいのかな?

 


「分かりました。ナイフを10本投影すればいいんですね?」

 


なら簡単だ。一昨日ナイフの投影はやったばっかりだし。
所が意外な事に、先生からまだ注意があった。

 


「そうだ。ただし条件がある。10本を連続で投影してみなさい。」

 


10本連続に・・・?
僕は初めそれがどういう事か分からなかった。
でも少し経って、10本を休み無く連続で投影しろって事だと言う事を理解した。

 



連続で投影魔術を使うのは相当の精神力を使う事になる。
確か連続投影は魔術でもかなりの位置にランク付けされていたと思う。
いくら簡単なナイフって言われても・・・僕の実力で10本は相当辛い。
例えるなら・・・簡易な鎧と武器で物語の後半に出てくる強い敵を倒すって感じかな?

 



とまぁ、そんな事考えたってどーってなる訳じゃないし。
やるっきゃないでしょ。

 


僕は投影の魔法陣を空中に描き始めた。

 


「それじゃ行きます。火と金の力に木を足し、我が思い描く対象をこの世に現せ!」

 


僕は昨日のを少し改良したスペルを呟きながら魔法陣に念を入れる。
スペルを改良した理由は簡単。昨日のだけじゃ到底10本は作れない。
だから僕は・・・、

 


「Repeat! Repeat! Repeat!」

 


こうやって繰り返しのスペルと木の行の力を借りている。
繰り返しのスペルは前に唱えた魔術をもう一度使う時、その力を軽減する事が出来るんだ。
3本・・・4本とナイフが次々魔法陣から具現化されてくる。
程なくして、僕はナイフを投影し終わった。

 


「(ゼェゼェ)・・・ナイフ10本投影終わりました。」

 


息を切らしながら僕は先生に報告する。
やっぱり普段練習してなかったからかなり疲れたみたいだ。

 


「なるほど。やはり君にはこの課題で正解だったな。いやお見事お見事。」

 


その様子を見ていた先生は感心したらしい。
パチパチと僕に対して拍手をしてくれた。

 


「よろしい。これにて試験は終了だ。後はポリシア先生に自分の入る寮を聞いてくれ。
 あ、この教室から出る時はそっちの反対側から出ていくように。」

 


そう言って先生はフッと僕の目の前から姿を消した。

 


「えーっと、これで一応試験は終わったのかな・・・?」

 


おぼつかない足取りのまま、僕は反対側の扉へと向かう。

 




「よう、その様子じゃかなり難題みたいだったな。お疲れー。」

 


残った力で扉を開けると目の前にはニョロが立っていた。
ニョロの方の試験は既に終わっちゃってたみたい。

 


「あー、ゴメン。ちょっと肩かして・・・。」

 


そう言って僕はニョロに寄っかかった。
ちょっと今の状態じゃまともに歩いたり出来そうにないや。

 


「ったく、しょうがねぇ奴だな。肩と言わずにおぶってやるよ。」

 


ニョロは僕を捕まえて自分の背中に乗せる。
朝にも言ったけど、やっぱりニョロの背中って気持ちいいんだ。
僕がウトウトしてた時、

 


「っと、これからあの鳥種の先生に寮どこか聞きに行くぞ。
 それまで俺の背中で寝たりするなよ。」

 


そんな言葉が僕に聞こえてた。
危ない危ない、寝たらニョロに思いっきり叩かれる所だったよ。
僕はニョロにおんぶしてもらい、そのままポリ先生の所へ向った。

 




ポリ先生の前にはスカイとミーナが先に来ていた。
どうやら二人とももう既に試験を終え、自分の寮を聞いていたみたいだ。

 


「マク君お疲れー。」「二人ともお疲れさまーっ。」

 


二人が僕達にそう言ってくれた。
それだけで体の疲れがとれた様な気がしたのは・・気のせいかな?

 


「試験お疲れさまー。それじゃソリティア君の寮は・・・金賢寮。アシュレット君は土宝寮ね。
 お部屋の番号はその鍵のタグに書いてあるから、そこに従ってね。」

 


ポリ先生はそう言って僕とニョロに寮の鍵を渡してくれた。

 


「ふーん。金賢寮に土宝寮かぁ。」

 


ミーナはチェッと残念そうに呟く。

 


「そうふくれちゃダメだよ。私達一緒の寮だからいいじゃない。
 あ、マク君ニョロ君。私達水月寮だからよろしくね。」

 


スカイはそう言ってミーナをなだめた。
・・・何か朝と雰囲気違うくないかな?
もっとこう、ギスギスして一触即発って感じだった気が・・・。
(スカイが一方的だった事実はこの際黙殺しよう)
まぁそんな事はおいといて、さっきから気になってる事が一つ。

 


「所で、スカイ達の後ろにいる子って誰?」

 


何かさっきから僕の方をジーッと見てるんだ。あの竜種の子。
まるで監視とかそんな感じ。

 


「あ、彼女はエフィ。さっき試験の前に知り合ったんだよ。」

 


ミーナはそう言って後ろにいたエフィをズズッと自分の前に立たせる。

 


「エ・エフィ・ロンドって言います。よ・よろしく。」

 


エフィはそう言ってまたミーナの後ろに隠れてしまった。
何かちょっと危ないくらいに顔が赤くなっている。

 


「エフィ君はすっごい恥ずかしがり屋で、男の子前にするとこうなっちゃうんだってさ。」

 


そう言って僕はエフィの方を改めて見てみる。

 


「ふーん、そうなんだ・・・って、スカイ?今何て言った?」

 


ふと、何か今とんでもない発言が飛び出した様な感じがした。

 


「え?だからエフィ君は恥ずかしがり屋だって。」

 


間違いない。
今スカイはエフィの事を君づけで呼んだ・・・と言う事はまさか?

 


「ねぇ?まさかとは思うけど・・・エフィって男の子?」

 


この時僕は心の中で願った。
エフィが女の子でありますように・・・と。

 


「あ、言い忘れたけど、エフィ君は男の子だよ?マク君とニョロ君と同じで。」

 


たった今、僕の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていった。
それはニョロも同じで何か額に手を当ててオイオイって顔してるし。

 


今の話をまとめると・・・つまりエフィは男の子だけど女の子の性格と人格を持ってるって事。
俗に言う性反転(性同一性)障害って奴。
男の子は女の子に、女の子は男の子だと自分を勘違いしてしまう病気なんだ。
しかも厄介な事にこれには対処法って言うのが全く存在していない。
治すのは本人の意思次第って世間では言われてる。

 


「な・なるほど。とりあえずよろしく。」

 


僕とニョロは少し引きつった笑顔でなるべく恐怖心を与えないように挨拶をした。
こりゃまた厄介な事になったもんだなぁ・・・。

 



そんなこんなで、僕達はポリ先生に言われた通りの寮へと向かった。
僕の寮は金賢寮。
下見の時に感じた予感は現実になったみたい。
荷物は既に宅配便で部屋の前に届いていた。
試験が終わった後すぐに発行していたみたいだ。
そんな風に感傷に浸っていると、寮の一部から大きな声が聞こえてきた。

 


「だーかーら!何でお前はいっつもそうなんだ!
 それはあっち。これはこうやって使うんだって!」
「えーっと・・・これがあっちでこれがこっちっと。」

 


片方がガミガミ怒ってるのに対し、もう片方はのんびりマイペースで事を進めている。
周りから見たら多分ドジな夫とそれをたしなめる妻って感じに見えるんじゃないかな?

 


「ねぇ、さっきから何騒いでるの?あんまりウルサイと他の人達に迷惑だって。
 何があったか知らないけど、ミルもファイもとりあえず落ち着きなよ。」

 


その様子に見かねた僕は騒ぎの張本人達に声をかけた。
あ、ちなみに。
怒ってる方がファイ。のんびりしてる方がミル。
二人はすっごく仲がいいんだけど、たまにこうやって意見の衝突があったりするんだ。
でも大体ファイが怒ってそれをミルがのらくらやって終わっちゃうんだけどね。

 


「だってさ、こいつ洗濯機とかエアコンとか使えないって言うんだぜ?
 これは俺じゃなくたって怒りたくなるだろ?」

 


そう言ってファイは僕に同意を求めてくる。

 


「あ、ファイ君ズルーイ。いっつもマクロ君味方につけるんだからー。」

 


ミルは恨めしいぞ・・・何て感じの表情で僕を見てきた。

 



さてこうなるととばっちりを受けた僕はもう大変。
一方に味方すれば一方は怒ってくる。
そんな悪循環が続くから、僕は結局・・・。

 


「あのさぁ。正直そんな事どーでもいいんじゃないかな?」

 


などといつもの決まりきった文句を言った。

 



「・・・お話はよーく分かった。とりあえず二人とも今日は痛み分けって事で。」

 


自分の部屋を前にして、僕は何故か二人に説教をしていた。
結局あれから2時間経っちゃったおかげで、夕食の時間になっちゃったんだ。
他のみんなは大体もう荷物整理終わって食堂や自室で夕食をとっている。
その点僕はまだ家具とか生活用品すら部屋に入れてない状態。
こりゃ今日は寝られないかなぁ?
何て事を考えていると、

 


「あ、まーだ片付け終わってないんだ。マクロ君遅いんじゃない?」

 

いつの間にかミーナが僕の後ろに立っていた。
ミーナの方は既に片付け終わったらしく、暇だからこっちに来たらしい。

 


「ファイとミルに説教してたらこんな時間になっちゃってね、おかげでもう大変なんだってば。」

 


ハァ、と僕は両手を上に上げてため息をつく。

 


「ふーん、それじゃ私が手伝ってあげる。これどこ運ぶの?」

 


そう言ってミーナは僕の荷物を取り上げ、部屋の方へと向かう。

 


「あわわわっ!い、いいよ。僕一人でやるから。」
「気にしないの。それに、この量と重さじゃマクロ君じゃ無理でしょ?力なさそうだし。」

 


・・・何か悔しい。
しかしそれが本当の事なので、僕は反論出来なかった。

 


「うわ・・・ミーナって意外に力あったんだ。これ僕一人でやっとなのに。」

 


ちょっと驚きながらもミーナに感謝しながら荷物を部屋に運び入れた。

 


〜数分後〜

「よし。これで全部だね。いやー二人でやると早いよね。」
「ホント。僕一人だったら後何時間かかってたんだろ?」

 


荷物を入れ、そのまま廊下で僕達は話ている。
あれから物の数分で全ての荷物を部屋の中に入れることが出来たっていうから驚きだ。
荷物はまだ紐解いてないけど、大体の形にはなったからよかった。

 


「あーあ。もうこんなに暗くなっちゃってる。日が落ちるの早いよねー。」

 


ミーナは手すりに寄りかかってそんな風に言った。
時折流れる風に、制服の外糞がヒラヒラとなびく。
たかだか数分とはいえ、辺りの風景は既にオレンジ色から群青色へと変わっていく。
夕方と夜の境目、そんな色が僕は好きだった。

 


「ホントだねぇ。あ、ミーナってもう夜ごはん食べちゃった?」
「ほぇ?まだだけど、この時間で食堂って空いてるのかなぁ。」

 


確か食堂は午後の8時まではやってたはず。
今の時間は7時少し過ぎだから・・・大丈夫。まだやってる。

 


「大丈夫。まだやってたと思うから・・・さ?」

 


そう言って振り返った時、何か柔らかい物が僕の唇に当たった。
一瞬の出来事で僕の思考と全ての時が止まる。
それがミーナの唇だって事に気づいたのはしばらく経ってからだった。

 


「ふふっ。これはこの間と今日のお礼。
 まだちゃんと言ってなかったけど、助けてくれてありがとう。」

 


唇を離し、ミーナは僕に笑顔で言った。

 


「さ、急いで食堂行かないと夜ごはん抜きになっちゃうよっ。」

 


そう言ってミーナは僕の腕を半ば強引に引っ張って走り出す。
その力が強すぎて僕はちょっと転びそうになった。

 


「ちょ、ちょっと待って。今行くから。」

 


僕はまだ麻痺してる頭を抱えながら、ミーナと一緒に食堂へと向かった。
さっきの事は・・・まぁ気にしないでおこう。

 



この時、僕は初めて異性と言う物が少し分かった気がした。


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