Memorial Clover Chapter2



「・・・と言う訳。大体理解できた?
スカイはその子にさっき起きた出来事を話していた。

 


それを僕とニョロが黙って見ている。
まぁ実際僕はまだ頭がクラクラしてまともに考えられる頭じゃなかったんだけどね。

 


「はぁ、ご・ゴメンナサイ。やっぱりあの自転車使うんじゃなかったなぁ。」
しゅんとうなだれてその子は下を向いた。

 


あの自転車って・・・そんな危ない物だったのかな?
確かにあのスピードは異常だ。
通常自転車ってものは自力でエネルギーを作り出して動かす物。
だからあんな風にできるのは・・・奇跡だけ。
そしてあの奇跡は確か・・・

 


「貴女、もしかしてあの自転車に幻術かけてたんじゃない?」

 


そうそれ。教科書で見たことあるって・・・あれ?

 


僕が思った事はスカイに言われてしまった。
幻術にも種類があって、対象に外界から付加するものとか幻を作り出すものとかがある。
ちなみに今のは前者。
そしてこの種類は結構高度なランクに位置づけられてたはずだけど。

 


「ほぇ?そうだけど、あれちょっと試験の練習がてら使ったんだけど・・・これが大失敗。
 おかげでブレーキまで壊れちゃって。
 ホント止めてくれなきゃ事故でガーデンどころじゃなかったわ。どうもありがとう。」

 


ちょっととぼけた感じでその子はお礼を言った。
その顔をみて、僕はさっきの出来事を思い出してしまった。
あの感触は・・・いや、そんな事考えちゃダメだ。
ブルブルと頭を振ってその考えを振り払う。

 


「ん?何だまだ回復してないのか。それに何か顔が赤い感じだなぁ。
 あ!そう言う事かぁ・・・」

 


ニヤリとニョロは僕を見て笑う。
その笑み・・・何かムカッとくるなぁ。

 


「ま、頑張れよ。応援ぐらいならしてやるからさ。」

 


ニョロはバシッと僕の背中に平手打ちを食らわせた。
その痛みで一気に意識は覚醒したみたいだ。

 


「いったーい!もう。この件はもうお終い!さ、見学に行こっ!」

 


さっきの子と別れて、僕達は勝手口を潜った。

 


「・・・うわー。ガーデンってもの凄く広いんだ。」

 


開口一番。率直に思った事を僕は口に出した。
中に入るとそこはもう別世界って感じ。
敷地の広さは・・・僕達の学校の10倍以上。
色んな建物が広々とした空間にそびえ立っている。
僕達は入る前に渡された敷地見取り図を開いて今いる場所を確認した。

 


「へぇー、これはちょっと覚えるの大変そう。」

 


スカイはそんな事言ってるけど、どうせすぐ全部の作り覚えちゃうんだ。
とりあえず僕は見取り図に目を走らせる。

 


「えっと、正門を潜ってしばらく歩くと中央校舎。
 それを覆い囲む様にして校庭が4カ所っと。
 そしてそれらを囲む様な感じで寮が5つ。
それぞれは通路で繋がってるみたい。」

 


注釈を読んでみると、このガーデンは五行にならって寮を設置しているらしい。
後は・・・まぁいいや。

 


「それじゃ最初中央校舎から見て回ろうよ。僕達がこれから勉強する場所だし。」
そう言って僕は先頭に立って歩き出した。

 


「わわ、ちょっとマク君待ってよー。」
スカイとニョロが慌てて僕の後を追ってくる。



しばらく歩いて、僕は思った。
中央校舎まで近いって言うのにさ、歩いて5分以上かかるのは近いって言わないんじゃない?
そんな事を思っていると、いつの間にか僕達は中央校舎に着いていた。
改めて見るとさっきの正門より大きい。
校舎なんだから当然だろ、なんてニョロには言われたけどね。

 


もちろん中の設備も完璧みたいだ。
この中央校舎は4階建てで1階から順に4年、3年、2年、1年って上がっていくらしい。
とりあえず僕達は4階の自分達の教室となる場所を見に行く事にした。

 


教室もとっても広い・・・。
一度に60人以上はゆうゆう入れるスペースだ。
でもそこに机はたったの30セット。
と言うことは・・・一クラス30人って感じなのかな?
スカイとニョロは辺りの風景、机の状態、冷暖房機の場所をチェックしていた。
・・・やっぱそう言う所チェック入れるんだ。
その辺は流石だなって僕も思わざるおえなかった。

 



次に僕達は[実技教習用校舎]って言う場所へ行ってみる事にした。
中央校舎からまた歩くんだけど、この建物はどうかなぁ。
何て言うのか、すっごく怪しげで危ない感じが僕の受けた第一印象。
どうやらスカイもニョロも同じみたいだ。
だって不吉なオーラが目に見えてる感じなんだもん。
それでも僕達はその中に入った。

 


そしたら意外。

 


中の空気はとっても気持ちよかった。
例えるなら・・・どこか昔の神殿って感じが適当かな?
そして不思議な力が漲ってくる感じも受けた。

 


「ねぇねぇ。何か凄く不思議な感じなんだけど、ニョロ達は力とか沸いてくる感じしない?」
「確かに結構気持ちいいけど、力とかが沸いてくる感じはしないなぁ。」
「私も同感。ただ単にマク君の気のせいじゃない?」

 


僕の言った言葉に首をかしげるニョロとスカイ。
でも絶対気のせいじゃないって。

 


校舎の中には魔法実験室や幻術研究室何て言うのもあった。

 


「それじゃあ次は、各寮を見て回りましょう。」
スカイはどことなく楽しそうだ。
その気持ちは僕にも分かる。
ニョロもどことなく嬉しそうだった。

 


「それじゃ一番近い木の行を持った寮からだね。
 えっと、寮の名前は[木蓮]だって。」

 


そう言いながら、僕達は木蓮と言う寮を目指した。



五行で「木」の位置にある寮、それが木蓮寮だ。

 


実技教習用校舎の裏手に木蓮寮は建っていた。
外装自体は木で出来てるわけではない。
ただ名前が木蓮だけあって、木にゆかりが深い人がこの寮に住むって話しだ。

 


「でも何で木蓮なんだろ?」

 


名前の由来は僕には分からない。
ガーデンの歴史とかそんな感じの本を見れば書いてあるんだろうけど、
大抵千ページ以上になるのが相場だし、そこまで見たくもないからいいか。

 


さらっと木蓮寮を見て次の所へと向かう。

 


次の寮は水月寮。

 


五行で「水」の位置にある寮である。
外装は水色でとっても清々しい感じが印象的だね。
ここには水にゆかりの深い人が来るって話も聞く。

 


「ここ、いいわね。」

 


スカイは独り言の様に呟いた。

 


確かに、ここはスカイみたいな子に似合うかもしれない。

 


次は金賢寮。

 


五行で「金」の位置にある寮。
外装は別に金色とか派手な色ではない。
薄いクリーム色?って言うのが正しいかも。

 


「ここは、何か僕にあってるかも。」

 


なぜだかそんな風に感じた。

 


次が土宝寮。

 


五行で「土」の位置にある寮。
外装は地面の色と変わらないから、一見地面から建物が生えてる感じに見える。

 


「ここは俺の性に合ってるかもな。」

 


ニョロはそんな事を呟いた。

 


確かにニョロみたいに落ち着いてる感じの人はこんな所がいいのかもしれない。

 


最後に火唱寮。

 


五行で「火」の位置にある寮だ。
外見はレンガ色?って言うのが正しいかもしれない。

 


何て言うか、凄く体育系とか熱血系の人がこの寮に行きそうな感じだ。
それ以外に変わった所はないみたい。

 



「ちょっと疲れたねー。」

 


スカイがそんな事を言ったので、僕達は食堂のある校舎に来ていた。
ここは自習室と食堂を兼ね備えた校舎みたいだ。
僕達はそこで持ってきたお弁当を食べ始める。

 


「これで大体回ったかな?後はちょっと職員室って所に寄るだけだね。」

 


エビフライを口にくわえながらスカイは言った。
・・・スカイってたまに女の子っぽくない所あるんだよね。
今の仕草が正にそう。
何て言うのか、行動がちょっと男の子っぽいんだ。

 


「職員室・・・?何でそんな所に寄るの?」

 


僕のこの質問でスカイとニョロはまたか・・・と顔を合わせた。

 


「お前ホントにちゃんと入学案内読んだか?
 寮に荷物運ぶ用紙をもらうと受験の手続きを今日しなきゃいけないんだよ。」
呆れた顔でニョロは僕に言う。

 


ムッ、僕だってそれ位覚えてたさ。
その為の手続きのマニュアルだってここに。

 


「そ、それ位覚えてたよ!それに必要な物だって!」
慌てて僕は自分のカバンの中を引っかき回す。

 


・・・あれ?

 


もう一度カバンをガサガサとあさってみる。

 


「筆記用具、入学証明書、入学案内書、受験手続・・・・・あーっ!」

 


突然の大声に周りにいた人達がこちらを向いてきた。
何てこった・・・よりにもよってこんな大ポカやらかすなんて。
僕はその実技試験の申し込み用紙を机の上に忘れてきちゃったみたいだ。
朝何か忘れてるって感じがしたのはこれだったんだ・・・。

 


「まさかとは思うけど、その紙忘れてきたんじゃない?」

 


その雰囲気だけで、スカイは僕が何をしたか分かったみたいだ。
流石は幼なじみ。

 


「やれやれ・・・これだからお前はどっか抜けてるって言われるんだよ。
 ほら。俺予備に二枚持ってきたからこれ使え。」
そう言ってニョロは僕に手続き用紙を差し出してくれた。

 


「ゴメンっ!この借りはちゃんと返すから。ホント助かったよ。」
「ああ、そのうちしっかり返してもらうからな。」

 


ニョロはそう言ってまたバシッと背中を叩いてきた。
反論しようにも、今回ばかりは完全に僕が悪い。
今度から気を付けなくっちゃ。

 


ニョロからもらった用紙に必要事項を記入して、僕達は職員室へ向かった。
職員室は中央校舎2Fのちょうど真ん中に位置しているらしい。

 


「失礼しまーす。」

 


お決まりの入室文句を言って職員室へ入る。

 


職員室も結構広かった。
どこかの会社のオフィスよろしく机がキチンと綺麗に並んでいる。

 


「こんにちわ。君たちは・・・新入生かな?」

 


背の高い竜種の先生が目の前に現れた。
何て言うか、もの凄くカッコイイ。

 


「それじゃ実技試験手続き用紙の提出を。」

 


僕達はその先生に用紙を渡した。
受け取った先生は何やら呪文を唱える。

 


「・・・はい。これで受講手続き完了。2日後、また会いましょう。」

 


そう言って先生は僕達に用紙の半切れを渡してくれた。

 


「ああ、当日はそれを試験監督者に見せないと実技試験は受けられないから注意して。」

 


職員室を出る際先生が親切にそう言ってくれた。

 

 


ガーデンに来てから結構な時間が経ったみたい。
外は既に夕暮れ時になっていた。

 


「それじゃそろそろ帰ろうか。時間も時間だし。」
スカイが僕とニョロを見てそう言った。
ニョロも同じ意見らしい。

 


「そうだね。僕も何か色々見て回ったら疲れちゃった。
 でも今の時間でバスあるかなー?」
お決まりの心配事と言えばそうなのだが、これは大事な事だ。

 


・・・でもそんな心配はなかったみたい。
僕達がバス停へ行くと、ちょうどバスが来ていた。
どうやら僕達が最後の見学生でバスの運転手さんは待っててくれていた。

 


乗客は僕達の他に誰もいなかい。
僕達が乗り込んだのを確認して、バスは走り出す。

 


歩き回った疲れからか、バスに乗った途端に睡魔が僕達を襲ってきた。
ニョロはすでに寝てるみたい。
向かい側の席でいびきをかいて眠っている。

 


「・・・マク君。一緒に試験頑張ろうね。」

 


ふと、後ろからそんな声が聞こえた。
それがスカイの声なのは間違いない。

 


僕が振り向くと、スカイもニョロと同じ様に眠っていた。

 


「一緒に頑張ろう・・・か。」

 


はたして僕は実技試験上手くできるのかな?
そんな事は受けてみないとわかんない。
でもこうやって心配してくれるんだから・・・絶対成功しなきゃ。

 


そう決意した時、ふと何か懐かしい思い出が頭の中をよぎった。

 


あの日、僕達は約束したんだっけ。
その約束の内容・・・実は覚えてないんだ。
でも何か、とっても大切な約束だったのは覚えてる。



次に気がついたのはバスが終着点である僕達の街に着く直前だった。
ニョロもスカイもまだ眠ってる。

 


「わわっ!二人とも起きて起きてっ!」

 


僕の慌てた声で二人は目を覚ます。

 


「降り損ねたら大変だよっ!」

 


その意味が分かったのか、二人はボーッとした頭をフルフルと振って眠気を飛ばしていた。
幸い気づくのが早くて僕達は降り損ねずにすんだ。

 


バスを降りるとまだ冷たい風がピュウっと吹き抜ける。

 


「それじゃ、また明後日に。」

 


「おう。」「うん。」

 


僕達はお互いに別れの挨拶をして、帰路についた。

 


Chapter3へ